ルビジウム発振器の周波数設定


(2005.10月27 更新FE5680Aの記述を追加しました)

最近某所でルビジウム周波数標準器をいくつか入手しました
メーカーはFREQUENCY ELECTRONICS 型式はFE5650Aと言います。
非常に小型(約75 x 75 x 40mm)なのでいろいろな組込用におもしろそうです。

ところが入手して周波数を測定してみたところ8.388608MHz(2~23Hz)と特殊な周波数で一般的な
10MHzとかの周波数ではありませんでした
メーカーのサイトからカタログをダウンロードしたのですがカタログにはOption 58についての記述が無く
特殊品らしいことがわかりました。
FEI社の製品情報のページ

上記のカタログによるとこのルビジウムは工場オプションで周波数が1Hzから20MHzまで設定できるそうです。
(ただし 矩形波の時1Hz〜10MHz 正弦波の時5MHz〜20MHz)
とのことで周波数の変更に挑戦してみました



写真1.今回入手したルビジウムです。


写真2.シンセサイザー基板


写真3.シンセサイザー基板の拡大
シンセサイザーにはアナログデバイセズ社のAD9830AというDDSが使われています。
そのクロックにはルビジウムの共振周波数6834.6875MHzの1/136の50.255055MHzが入っています。
このDDSの設定値を変更することで任意の周波数が設定できます。
Rb87の共振周波数は文献によると6834.6826128MHzでSRSのPRS-10などはこの周波数になっていますが
EFRATOM社やFEI社のものは なぜか6834.6875MHzになっています。これはたぶんガスセルの圧力やバッファーガスの
違いによるものと思いますが詳しいことはわかりません。 どなたか詳しい方がおられましたら教えてください


他に2つの押しボタンスイッチが見えますがこれは一方が設定値の増加でもう一方が減少で
どちらがどちらかは忘れましたが押してみればすぐわかります。ボタンを押した結果は記憶されて
電源を切っても解除されないので必要ないときは触らないようにしてください

微調整ならばここでも設定できます。


写真4.通信ポート



写真5.通信ケーブル

実際の設定方法はこのようなケーブルを作ってPCのシリアルポートから
基板上のコントローラーにコマンドを送って周波数を設定します。

通信ソフトはWindowsに付属のハイパーターミナルを使用しました
特殊な機能は使用しないのでターミナルソフトは何でもいいと思います。

通信形式は
  ボーレート 9600  データビット数 8  ストップビット 1
  パリティー なし  フロー制御 なし
です。


通信方法
まずキーボードから S(CR)と打ってください
(注.(CR)はキーボード上のEnterキーです。以下の操作も同様です。)
するとコントローラーから
R=50255057.015837Hz F=2ABB504000000000
OK
という応答があります。(これは一例で数値は個体によって変わります。)
この値の意味は
R= がDDSに入っている周波数、F= がDDSの設定値です。

そこでキーボードから
F=XXXXXXXX(CR)
と入力すると設定値が変わります。(XXXXXXXXの部分は8桁の16進数です。)
上記のコントローラーからの戻り値は16桁ですが入力する値は8桁なので間違えないように

R=の数値は同様に変更することができますがこの数値を変えてもなにも起こらないです。
どうやらこの値は校正時の周波数を記録しておいてF=の設定時の校正値として計算に使用
するみたいです。

最後にE(CR)と入力すると上記の周波数を記憶します。
これを実行しないと電源を切ると元の値に戻ってしまうので気をつけてください
以上で設定完了です。

設定値の計算方法
設定値はDDSに設定する32ピットの値をそのまま8桁の16進数で記述したものです。
詳しくはアナログデバイセズ社のホームページでAD9830のデータシートをダウンロードして
それを読んでください

と書くと終わってしまうので少しだけ解説します。
DDSに入力される周波数が50.255XXXXMHz(R)で DDSのアキュムレーターのビット数が32ビットなので
設定値1ビットあたり
R/(2~32) = 0.01170xxxxx(Hz) になります。

そこで目的の周波数をたとえば10MHzとすると
F= 10000000/0.0117xxxxx = 854633852

これを16進数で表記すると
F=32F0AD7C
となります。(あくまで一例ですのでこのまま打ち込んでも正確に10MHzになるとは限りません)
(注 周波数はPICのプログラムで5MHz〜20MHzに制限されているみたいで範囲外の設定をすると正しく動作しないことがありました)

その他の留意点
周波数は約0.0117Hzステップで設定し、半端な値なのでこのままでは設定値によって最大約0.006Hzの
誤差が発生します。
周波数を頻繁に変更する場合はどうしようもありませんが固定周波数で使用する場合は下の写真のトリマーで
若干(±0.01Hz位)ならば調整できます。
ただし(当然)これを調整するためにはこれと同等以上の精度を持った周波数標準器と0.001Hz以下の分解能を持った
周波数比較器が必要になります。


写真5.周波数調整


最後に この周波数標準機の周波数をいろいろと変更してみて気がついたのですが カタログスペックでは
周波数範囲は5MHz〜20MHzなのですが11MHz以上の周波数で出力レベルの低下が見られ
実用的な動作範囲の上限は13〜14MHzで18MHzとか19MHzではレベルが低すぎて使えないことかが解りました
(最初のうちは周波数しかみていなかったのですぐには気がつきませんでした)
これはDDSの出力のローパスフィルターが8.38MHzで最適動作に作られているためと思います。
(この辺が工場オプションになっている理由ではないかと思います。)
ローパスフィルターの定数変更で15MHz位までは可能と思いますが 17MHz以上ではDDS特有のスプリアスの周波数が
近づいてくるのでLPFだけでなくBPFも併用する必要ありかもしれません



FE5680Aと言うルビジウム(2005.10月)

また最近新たに新しいタイプのルビジウムを入手しました
これはサイズは上記より大きいですが厚さが25mmと非常に薄いです。

写真.今回入手したルビジウムです。


内部です。
内部は一部違っている部分はありますがほとんど上のものと同じです。
周波数変更も同様の方法でできました
周波数の微調整はあけなくてもケースの小穴から見えるトリマーの調整でできます。


あくまでも設定方法についての備忘録ですので この通りやってもうまくいかなかった
虎の子の発振器をこわした 等のクレームや 発振周波数の変更の依頼は受け付けません
また本標準器の販売もしていません
これを見て実行される方はあくまでも自己責任でお願いします。

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